書店で、ちょっとさわりだけ読んでみようと、手にとってみたらもうとまらなくなって、そして、小説がもつちからというか、川上未映子という作家のちからに圧倒されました。
講談社
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どこが名作なんだろう・・・・
現代社会に潜む難病を示唆した物語
「すべての出来事に意味がある」ってホント?
苛めでなく暴力
続編を待つ
あの子たちはね、気づいてないのよ。でもそれは仕方のないことなんだよね。でもわたしや君には、このことの意味がちゃんと理解できている。わかっている。そしてそういうふうににさ、この弱さで、このあり方を引き受けて生きていくのは世界でいちばんたいせつな強さなんだ。これは、・・・・・・あの子たちや、わたしたちや、お父さん、・・・・・・だけじゃなくて、世のなかにあるすべての弱さのための、そしてほんとの意味での強さのための、儀式なのよ。虐げられて、苦しめられて、それでもそれを乗り越えようとしてる、この大切さを知っている人たちのことを忘れないためのものなの。
なあ、世界はさ、なんて言うかな、ひとつじゃないんだよ。みんながおなじように理解できるような、そんな都合のいいひとつの世界なんてどこにもないんだよ。そういうふうに見えるときもあるけど、それはただそんなふうに見えるというだけのことだ。みんな決定的に違う世界にいきているんだよ。最初から最後まで。あとはそれの組み合わせでしかない。」
百瀬の言ったことはすべてがまったく馬鹿馬鹿しい考えかたのひとつにすぎないと心底から思えることもあれば、どう考えてみても百瀬の言うとおりだとしか思えなくなることもあった。
それでもあの夜の百瀬の話のなかには、いっそ蓋をしてなかったことにでしたくてもできない気配のようなものがあった。僕を支えている正しさのかけらも届きようのない部分があり、(略)
コジマのなかに生まれた変化は、コジマが僕に与えてくれた、小さいけれどたしかな明るさが満ちる場所に暗雲のように垂れこめ、そして僕じ自信はその場所からいつかしめだされてしまったのだった。
物語の最後で「僕」の前にはあたらしい世界が開けます。
これからも、彼らをとりまく世界は苦しくて厳しい現実に満ちているけれど、必死にもがきながら、別々の方法だけども、たしかに世界を変えていくことができる、そしてこのひととき同じだった二人の世界は、それぞれ別々に離れていくでしょう。
斜視の手術後、医師が僕に言う。
「忘れるさ」
「忘れたことにも気づかないくらい、完璧に忘れてしまうと思うよ。」
陰惨ないじめのシーンや、醜い容姿の主人公たちという設定の物語が、どうしてこういう読後感になるんでしょうか、ほんとうに美しい作品だと感じました。
これは、作者が小説だからこそできる「美しさ」の表現に取り組み、見事に成功しているからでしょうう。今年最後にいい作品にめぐりあえて幸せです。