リバーズ・エッジ River’s Edge 岡崎京子

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岡崎京子の代表作にして、マンガ史に輝く最高傑作。

リバーズ・エッジ (Wonderland comics)
岡崎 京子
宝島社 (2000/01)

あたし達の住んでいる街には
河が流れていて
それはもう河口にほど近く
広くゆっくりよどみ、臭い

河原のある地上げされたままの場所には
セイタカアワダチソウが
おいしげっていて
よくネコの死体が転がっていたりする

置き去りの死体(骸骨)、セックス、ドラッグ、妊娠、いじめ、過食症、ひきこもり、援助交際、家庭崩壊、同性愛、動物虐待、放火、焼身自殺、殺人(未遂)と様々な惨劇が、普通の高校生の日常とつながっていく。

いじめの対象で同性しか愛せない少年ヤマダは、セイタカアワダチソウがおいしげった河原の中で、腐りゆく死体を発見する。

自分が生きてるのか死んでるのかいつもわからないでいるけど
この死体をみると勇気が出るんだ

いじめにあい、片思いの同姓には想いを告げることはない。もしかして好きになれるかと考え、付き合った異性は、自意識の中に生きて、自分の事しか話さない。誰にも必要とされることはなく、死んでいないということだけで生きていることを確認する。

もう一人、この死体の愛好者であるモデルで過食症の吉川こずえは死体を見て

あたしはね、“ザマアミロ”って思った
世の中みんな キレイぶって ステキぶって 楽しぶってるけど ざけんじゃねえよって
あたしにもないけど あんたらにも逃げ道ないぞ ザマアミロって

この世界が、平坦な日常が、いじめも、決して届くことのない想いも、過食と嘔吐の繰り返しも、終わることなく永遠に続いていくことの絶望から逃れるために、彼らは死体という希望を共有する。

ヤマダとハルナが橋の上を歩きながら話すシーンでは、河の向こうに海の匂いを感じながら、朝を迎える

ここから海はそんなに
近くないんだけど
たしかに海の匂いがした

汽笛の音も確かに聞こえた

UFOは結局現れなかった。

東の空がぼんやり
明るくなってきた

朝がやってきた

繰り返し語られる朝のイメージは、微かな海の匂いは、閉塞感からの脱却を象徴し、まだ見たことのない新しい世界や未来の比喩で、訪れ来る朝は永遠に続く日常が、また始まることの絶望を象徴している。

しかし、これだけの様々なエピソードを盛り込みながら、物語として見事に完成されている事が奇跡的。作品としての完成度は驚くほど高い。

作者の岡崎京子は、1996年に起こった交通事故によって、休筆が続いているが、現在44歳になった彼女の作品を読んでみたいと、心からそう思う。

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