「夜の公園」~川上弘美

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夜の公園

川上弘美は、最も好きな作家のひとりです。
過去に読んだ作品は、

 「溺レル」
 「蛇を踏む」
 「センセイの鞄」
 「古道具中野商店」

と来て、この「夜の公園」です。

初期の、本人曰く「うそばなし」というところの、現実と非現実の境目があいまいで、なんともいえない、居心地の悪さが特徴の、文体と独特な世界観が、作品を経るに従って、どんどん行間の中に押し込まれて行ってる感じがします。

それでも「センセイの鞄」では、少しだけ残っていた現実とそうでないものの、あいまいな部分が、前作の「古道具中野商店」では、誰でもはっきり意識できる、リアリティという境目の中に収まっていて、それなのに、居心地だけは、なんとなく悪いという、ちゃんとした川上作品となってました。

この「夜の公園」では、さらにすすんで、作者を感じる独特の色さえも、行間の中にすっかり隠してしまってて、一見「川上弘美」の作品じゃないみたいです。

作品の中で、登場人物が感じる「自分は、どこにいるのだろう。」という、この世界の中の、どこにも居所のないかなしみが、この「川上弘美」っぽくない作品の中で語られた、川上弘美の世界そのもの、なのではないでしょうか。

特に、作中、離婚に至るまでのリリと幸夫の、お互いに対する心のありようは、ここ半年の、自分(たち)のそれを、もういちど繰り返し見ているようで、心の底の方に、やっと静かに溜まり始めた泥のようなものが、またぐるぐるとかき混ぜられて、ぶわっと濁った渦が巻くようです。

この主人公のように、自分の居場所を探すなどということは、もう考えることはないでしょう。そうかといって、じっとして動かないでいると、かなしみのようなものが、ぴったりと躰を覆うように張りついて、はがそうとすると血が出るぐらい、ひとつになっていくような感覚におそわれます。

気づくと、作中で春名が何度も言う「わからない」という言葉が、口をついて出ていました。

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