生きる歓び@橋本 治 【cafe de なもし 道後商店街】

背表紙の一文を抜粋。

なんでもない「ふつうの」人々が生きる、ごく「ふつうの」の人生。そのささやかな歓びと淡い哀しみを切々と描く短編集。

橋本治自身が、自著の解説を書いているのもおもしろい。

ここには、「生きることに対する積極的な歓び」というようなものはない。九編に共通するものは、ある種の「あきらめ」である。
 (略)
あきらめの美しさ、あるいはまた、あきらめの静けさというものが、九作品には共通してみられる。あきらめて生きるのではない。「あきらめることを静かに受け入れて、生きる歓びというものは、その後にゆっくり現れるものだ」

生きる歓び
生きる歓び

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橋本 治
角川書店 (2001/02)
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ふと、喫茶店の隣の席の二人おばさん(ひとりは「まいこちゃん」らしい)の話に聞き耳を立ててみる。(伊予弁ですよ)

「あのな、まいこちゃん。昨日な、ベランダで履くツッカケがね、300円でええのがあったんよ」
「へぇ、そう。わたしな、昨日、新立の方から帰ったんよ」
「ああそぉ、で、その300円のツッカケ、みえちゃんもええなぁゆうてな、黄いろいツッカケ」
「そうそう、土手との間に、白いモッコウバラがきれいに咲いとってな、黄いろはちがうけどね、白は、いい香りがするんよなぁ」

何を話し込んでいるのかとき聞いてみれば、話題はまったくかみ合ってないながら、なんだか微妙につながってるみたい。

もちろん、このおばさん二人にも、一人ひとりの「生きる歓び」の物語があるのだろうと思う。

ゆっくりさよならをとなえる 川上弘美

 川上弘美のエッセイ集です。

 タイトルは、最後の一編「ゆっくりさよならをとなえる」の最後の一節

今までに言ったさよならの中でいちばんしみじみしたさよならはどのさよならだったかを決める(決まったら心の中でゆっくりさよならをとなえる)。

ゆっくりさよならをとなえる
川上 弘美
新潮社 (2001/11/24)
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いつも手の届くところにあって欲しい一冊。

なにげなく手にとり、ぺらぺらと適当に頁をめくると、次のような一節が目にとまる。

ビール小瓶一本。燗酒を二本。ぬた。ほたるいかの沖漬。ちびちびと飲み、ちびちびと食べる。
  (略)
店のがらり戸を開け、のれんをかきわけながら外へ出た。月がまんまるだ。おぼろ月夜ではなく、くっきりとした春の月である。春のおでんだったね、と言い合いながら、駅までゆっくり歩いた。何かわからぬ花の匂いが、夜の中を漂っていた。大根の味が、ほんの少し口の中に残っていた。 (春のおでん)

でもって、「ああ、春のおでんもいいなぁ」と思う。

重力ピエロ 伊坂幸太郎

物語の世界に入ると、もう「ぐいぐい」と読まされるまま、一気に読了。

重力ピエロ
重力ピエロ

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伊坂 幸太郎
新潮社 (2006/06)
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作品のラストで、余命わずかな父が、息子「春」の手をとって言う言葉のシーン、2人の息子を持つ父親として感情移入、思わず涙を流してしまいました。

また、この作品を読みながら、20年以上前に読んだ、この作品同様の兄弟の物語として共通点のある、村上龍の、「コインロッカー・ベイビーズ」を思い出しました。

コインロッカー・ベイビーズ (上)
村上 龍
講談社 (1984/01)
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「コインロッカー・ベイビーズ」では、主人公の兄弟「キク」と「ハシ」はコインロッカーに捨てられ、世界から見捨てられたものとして生まれる。自らを捨てた世界にに対しての復讐の物語に、圧倒的なエネルギーが感じられる、作者初期の素晴らしい作品です。

未読の方は、ぜひ読み比べてみてください。

私の頭の中の消しゴム

いまさらながらですが、「私の頭の中の消しゴム」です。

私の頭の中の消しゴム
私の頭の中の消しゴム

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ジェネオン エンタテインメント (2006/03/10)
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不覚にも号泣してしまいました。

「不覚にも」なんていうとアレですが、映画・ドラマ・小説・マンガに至るまで、ふつうにしょっちゅう泣かされているGEROPPAです。

人は、憎しみや悲しみを忘れることにより、喜びを知り幸福になることができます。
でも、人は、愛する事を忘れてしまったとき、すべてが失われてしまう・・・。

愛する夫が、今日仕事から帰ってきたときに、その名前を、顔を、すっかり忘れてしまっているかも知れない・・・。

明日の朝、目覚めたときに、愛する妻は、自分の顔を、名前を、すっかり忘れてしまっているかも知れない・・・。

こんな悲しくて残酷な現実、とうてい受け止めることなど出来ないですね。この映画は、そんな、若年性アルツハイマー病におかされた、恋人達(夫婦)の切なく悲しいラブストーリーです。

しかし、韓国映画は、こういうストレート剛速球ど真ん中にずどーんと泣かせるの作らせるとうまいですね。わかっちゃいるけど、やられてしまう。

良かったのは、主役のソン・イェジンとチョン・ウソンの2人、魅力的です。
チョルス役のチョン・ウソンの、たくましくワイルドながらやさしいくて寂しそうな瞳、スギョン役のソン・イェジンの、チョルスへの、ひたすらまっすぐで、一途な愛表現もいい。

これが、日本映画だと、まどろっこしくも、めんどうくさい恋愛成就までの駆け引きなど、余計な部分がスッキリない。(いいところでもあるんですけどね)

しかし、この映画、脇役が、ダメですね。

主役はストーリー運びがあるので、ある程度ベタにならざるを得ないところはあります。しかし、脇役で質感を上げるという手法をぜひ取り入れていただきたい。

これじゃ、主役の二人以外は、大工の棟梁、医者、元不倫相手とか、男性の脇役達は次課長の河本、お母さん、妹、同僚のハデな女、などなど、女性配役は友近だけでもたいして変わらない。

あと、ラストのコンビニのシーンでは、出会いのシチュエーション(コーラ)に反応して欲しかったなというのが個人的な感想です。

謎のギャラリー―愛の部屋@北村薫 編

北村薫 編による愛の物語のアンソロジー。

編者があれなんで、ストレートな「恋愛」の「愛」じゃないです。

どこかの国の首相の、最近話題になったの発言風に言うと、「狭義では、愛とは呼べないかもしれないが、広義ではこれも愛といえる」って感じでしょうか、そんな物語が集められています。

とても悲しすぎるのですが、梅崎春生「猫の話」が、いいですね。

ほかには、
・「狐になった婦人」デイビッド・ガーネット/井上宗次訳

 愛する奥さんが、突然狐になっていまう。そこから、主人公デブリック氏の、愛と葛藤の物語。
 まあ、ありえないことだけどもう、もし、じぶんの奥さんが(しかも奥さんはいない)狐になったらと考えてしまうぐらい、ありえない話だけども感情移入してしまう。

・「砂糖」野上弥生子

 昭和の戦争へと向かっていく時代の、主人公、世話好きで、誰からも愛される房子さんと、友達の和子さんの軽妙な言葉のやりとりがよい。また、和子が房子の訃報を受けたときの表現が印象的。

いつもはぢいぢい雑音がはひつて、半分もわからないことの多い電話が、今日に限つて意地わるく明瞭に聞こえたのが腹だたしかつた。それはまた、この危険な時節に、なんだつて船なんかで帰つたのか、と思ふ腹立たしさでもあつた。和子の胸はむしろ硬ばり、悲しくもなんともなかつた。ただ涙が出た。唇に流れ込む塩つぱい水を舌の先で嘗め、話がきれたのにまだ握つてゐた受話器を、がちやりと乱暴にかけた。

砂糖を一杯持って帰って、みんなを喜ばそうとした房子に起こったことが、「なんだつて船なんかで帰つたのか」、「唇に流れ込む塩つぱい水」という、この短い独白で表現されている。これはすごい文章ですね。

謎のギャラリー―愛の部屋
北村 薫
新潮社 (2002/02)
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決闘の辻@藤沢周平

藤沢作品と言えば、映画にもなった「たそがれ清兵衛」や「隠し剣シリーズなど」名も無き武士の物語というイメージがありますが、こちらは、宮本武蔵、神子上典膳、柳生但馬守宗矩、諸岡一羽斎と弟子たち、愛洲移香斎を主人公にした短編五編、

それぞれの話のクライマックス、決闘シーンの描写は、まるでそこに居合わしてるかのような、臨場感に息を呑み、鼻の奥に血なまぐささまで感じるぐらい。いやぁすごい。

決闘の辻
決闘の辻

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藤沢 周平
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ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉

今日は、仕事で朝から高松。

長びいた商談でしたが、結果は大成功。ほっと一息です。
結果を待っている人たちに、早く報告して、喜んでくれる顔が見たいですね。

話は変わって、今、読んでいる本。
単行本では、すでに完結しているようですが、文庫で追っかけてます。やっと28巻まで来ました。

ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉
塩野 七生
新潮社 (2006/09)
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真鶴 川上弘美

このブログではお馴染みの、川上弘美さんの最新作「真鶴」です。

真鶴
真鶴

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川上 弘美
文藝春秋 (2006/10)
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主人公は、ある日、過去に失踪し、生きているのか、死んだのかわからない夫を求め、この世のものなのか、あの世のものかわからない「ついてくるもの」に導かれ、真鶴に向かう。そこは、彼岸と此岸の間にあるかのような真鶴の海。

登場する、すべての人と世界はあいまいで、それぞれの自我は、輪郭だけを残して、ふわふわと漂いからみあっている。現実と内面の世界に境目はなく、ただ解け合って混ざりあっている。

ことばがもつちからと、独特の文節のリズム感。こんなにごっそりと、物語の世界にひき込まれる体験は初めてです。

否定する訳ではないんですけれど、内側はもういいかなっていう気もちょっとしたりして、でも内側以外のことは書けなくて、外から見て掴んでと言うのもできないから、内側と外側をどうつなげていこうかと、このごろ考えることです。

(中略)

内側は内側、外側は外側と、単純に分かつだけではいられないっていう感じが、これはたぶん、書いているうちにわかってきたような気がします。(新潮社:考える人 2007年春号)

「センセイの鞄」では語られていた、内側の世界が「古道具中野商店」「夜の公園」と続く、外側からの世界を描いてきた川上作品も良かったですが、この作品は、本当にど真ん中の川上弘美を見せられた感じですね。

この素晴らしい作品から受けた感動を、語る言葉を持ち合わせていないのが残念でなりません。